第3 間接事実の作り方
1 犯人と被告人の同一性の考え方(間接事実型の場合) 犯人と被告人の同一性とは,犯人と被告人が同一だという認定をすること。
これを考えるためには,基本的に,刑法の知識はまったく不要である。しかし,ある意味特殊な思考パターンが要求される。この思考パターンは,コツをつかめば,難しくない。
それぞれの間接事実の核として,たいてい,何らかの痕跡がある。(例えば,遺留品,指紋,血痕,盗品……。)それらの痕跡を通して,「犯人」から「被告人」まで,線でつなげばよい。
それだけ。
この考え方を図示すると,以下の通り。
https://gyazo.com/08aa1fcb3e91f3ca55d57e69818277d1
【図の作り方】
① 左側に「犯人」,右側に「被告人」,真ん中に「○○(痕跡)」を書く。
② 犯人と痕跡,被告人と痕跡が,どのようにつながるのかを考える。
③ 間にありそうな事実や目撃者を記載し,線でつないでいく。
④ 考え方のコツ
・つながり方の強さを意識する。太い線,細い線,点線なんかで区別してもよい。
・事実と事実の間にある事実は何なのか,どのような関係に立つのか,などを,自分なりに表現するようにする。
正解があるわけではないし,この図を起案用紙に書くわけにも行かないので,あくまでもメモ。あまり考えすぎないように。
犯人と被告人の距離が遠いときには,この図を描くことによって,犯人から被告人までつながる道が,どんな道なのか,概観できる。一気に犯人から被告人まで行く必要はないんだな,ということがわかるはず。
この地図を片手に,通過地点,休憩所などを通りながら,ときには難所を迂回しながら,着実に犯人から被告人まで歩みましょう。
2 間接事実の条件
具体的に間接事実を作るときは,以下の条件(特に,条件(2))に留意するのがよい。そうすれば,自然と,犯人と被告人の同一性の考え方に沿った間接事実となる。
条件(1) その事実単独で,推認に役立つものでなければならない
それぞれの間接事実は,単独で,要証事実の存否を推認するのに役立つ力を持っていなければならない。別の事実と組み合わせることではじめて意味を持つものは,その別の事実と組み合わせることによって,ようやくひとつの間接事実となる。
条件(2) 犯人側の事情と被告人側の事情の双方を含んでいなければならない
条件(1)の,犯人と被告人の同一性事案における,ひとつの重要な現れ方が条件(2)である。ひとつの間接事実は,①犯人側の事情と,②被告人側の事情を,必ず含んでいなければならない。これは重要!
たとえば,男物腕時計(シチズン社製・製造番号12354963)が盗まれた事案で考えてみると,
code:悪い例
「被告人が○月○日どこそこで男物腕時計(シチズン社製・製造番号12354963)を所持していたこと」
ではだめで,(被告人側の事情しか入っていないため,これだけでは,なんの意味も持たない。)
code:良い例1
「被告人が○月○日どこそこで,本件犯行の被害品である男物腕時計(シチズン社製・製造番号12354963)を所持していたこと」
あるいは
code:良い例2
「本件は,男物腕時計(シチズン社製・製造番号12354963)を盗まれた事案であるところ,被告人が○月○日どこそこで男物腕時計(シチズン社製・製造番号12354963)を所持していたこと」
などとしなければならない。
条件(3) 多少は推認力を持っていなければいけない
ほとんど推認力を持たない事実を間接事実としてあげてはいけない。
たとえば,民家から5万円が盗まれた事案で,
code:例
「本件は金銭目的の犯行であるところ,被告人が金に困っていた事実」
という間接事実をあげるのは,基本的に,好ましくない
金に困っている人はたくさんいるので,金に困っているだけで,犯人と疑われてはかなわない。ということは,この事実は,推認力をほとんど持たず,ということは,間接事実としてあげない方がよい事実ということになる。
条件(4) 互いに独立した事実でなければならない
独立した,というのは,ひとつの間接事実がつぶれても,別の間接事実がつぶれることはない,ということ。また,ひとつの間接事実が,別の間接事実に依存していない,ということ。
それぞれの間接事実を検討(認定→推認力判断)した後で,間接事実の総合という思考をたどるので,互いに独立していない間接事実が混ざっていると,その間接事実を二重に評価してしまうことになる。
code:※条件(2)(3)(4)のチェックポイント
条件(2),(3),(4)を満たしているかのチェックポイントとしては,間接事実の個数が使える。
刑裁の間接事実は,たいてい,1~5程度である。にもかかわらず,自分の起案に間接事実が8~10以上もできてしまったら,条件(2)~(4)の違反を犯している可能性が高い。
条件(5) 具体的な事実でなければならない
具体的な事実とは,要するに,5W1H。
だれが(主体),いつ(時),どこで(場所),何をor誰に対して(対象),どのように(方法),どうした(結果),を記載すれば,具体的な事実になる。
条件(6) 認定できる事実でなければならない
3 犯人と被告人の同一性の間接事実の一例
間接事実の類型を頭に入れておけば,間接事実を見つけやすい。
この点で,間接事実の一例を,類型ごとに整理しておくことは有用。
code:例
1 事件に関係するもの(犯行供用物件,被害金品等),現場等における遺留物その他犯人に関係するもの(指掌紋,足跡,血痕,体液等)と
被告人との結びつきを示す事実
2 犯人の特徴(容姿,体格,年齢,服装,所持品その他の特徴)が
犯行当日の被告人の特徴に合致ないし酷似する事実
※どこが合致するのか,どのように酷似するのか,それはどれくらい珍しい合致・酷似なのか,等を論じること。
3 被告人に事件の動機・目的となり得る事情があった事実
※犯人・事件側の事情として,本件が何らかの動機・目的を持つ者の犯行であることも認定する必要がある。
4 被告人が事件を実現することが可能であった事実(犯行遂行能力,技能,土地鑑,金品等の管理の立場,被害者と被告人との結びつき等)
5 被告人に事件を実現する機会があった事実(被疑者が犯行時に犯行現場にいた事実,犯行前・後に犯行現場又はその付近にいた事実。いわゆる「前足・後足」)
6 犯行前の被告人の事件に関する言動(犯行準備,犯行計画,犯行隠蔽のための布石,逃亡準備,犯行の事前打ち明け等)
7 犯行後の被告人の事件に関する行動(犯行による利益の享受(犯行以外の原資が不明な現金所持,借金返済等を含む。),犯行隠蔽,アリバイ工作,逃亡,犯行打ち明け等)